勝利自身、こうしたって何も変わらないことは重々承知しているつもりであった。
けれど変える事はないのではないかとも、思う訳だ。
いつもの理不尽でいられない事が、また歯痒いものだった。









ひるのかげ










「勝利マン、それも貰いものなの?」
「…ああ、そうだ」
何度目とも言い切れぬ繰返しを思い返して、洋一の顔を横目で覗う。
それほど熱くもない、夏の昼下がりだった、大概は自分が占領し続けた結果、誰も寄りつかなくなった屋上に、見慣れた顔の猫が居座りに来た。
屋上では寒いのではないか、扉をあけて言い放ったその言葉で始まった会話が、今では座り込む事も黙認していた。
彼が、何かに対してそんな風に口にするのは、対外強請りだとわかってる。それを解り切った上での口調は、ひどく慣れ親しんだ上での形だと知れて、その度に俺はは妙な気にあてられていた、 その感覚はいつだって慣れないものだった。
余計な返事をする前に、袋から彼の好みそうな類を取り出して投げ渡す。待ち構えてたのか知れないが、綺麗に受け取られると、それすらも歯痒く思えた。
「これ、好きだろ」
「そう、なんだかいつも僕が貰っちゃって、ごめんね」
本当にそう思ってんのかよ、と毒づいている口の裏は、なんとなしに閉じられた。彼はそれでも配慮をしてるつもりらしい。

「別にどうせこんだけありゃあ捨てるんだ、気にするな」
それもそうだよね、なんて呟いて、すぐに封を切り渡されたパンにかぶりつく。どこがごめんねだ、どこが。
呆れ半分で見ていれば、彼はいつまでも動く気配を見せなかった。目の前で幸せ染みた顔を浮かばせ、
頬を上下させ口をたえず動かしていた。かける言葉を見失いかけて、やけに落ち着いた声をかける。

「努力のとこにいかねぇのか」
「ん、んーう、」
咀嚼していたリスのような頬がへこんで、一度だけの間を待てば、彼は落ち着いた声を返した。
「今日は別なの」
たいした理由もなさそうに片づければ、言葉は続いた。
「ここにいちゃ駄目だった?」
「なんだよ、用があるのか?」

「ないよ…なにも」
彼の声は静かではあったが、困惑は見られなかった。
そのかわりいい訳でも考えるかのように顔を逸らして、咀嚼の様を止める。
伏せられがちにされる顔は見慣れないので、失いかけたのは言葉よりも自分だった。
不意に頭に過りかける、下らない冗談を言うあの青臭い花のような笑顔の場面が。
突き落とす様に、そして別れを告げる様に言葉を向ける事をしなかった事に、勝利は自覚した。
「女の子でも来るの?」
ぼそりと質問を、質問でまた答えられる。何も答えられてはいないのに、
「いっつも、いっぱい女の子が集まるのに、一人で食べてるよね」

何かを答える前に、ぽつりぽつりと会話は続けられる。先が見えない道を、不用意に作り出しているようで、
彼の静かに続ける口を、なんとなしに追い続けた。

「だから、折角だし、一緒に食べても…いいかな、て」
思ったのに、
そのまま口は閉じられて、背けられた視線を、再びこちらに戻すことはしなかった。
仕方なしに溜息をつく、こちらに寄る事を望んだ彼は、今更に躊躇いに襲われた様に、唇を噛んでいる。
いつしか順序が自分だと気付かされた、何かを言わなければ、このままでは泣く事もおかしくないのだろうか、
「…話すことなんてあるか?」
委ねるつもりで聞いた、どうせ何も変わりはしないと意地を張って見せていても、彼には通らないのも知れている。
純粋すぎるものだと、淡々と事が進む、彼は障害が無いのだという、壁など存在しないと笑う。
そしてどちらかといえば、そのほうが正しいのである。
緩やかに視線が微笑んだ気がする。口が開かれる。悪どい自分の姿を思っては、長生きしていたことが無意味にされる気がする。
「勝利に聞きたい事がいっぱいあるんだよ、おしえて?」
例えば他の星の話とか、例えば協会の事だとか、

例えば自身の事だとか、


知りたくて楽しそうな顔を浮かべて、子供っぽく笑いかける。
そういえばまだ中学生だったんだ、こちらのほうが自然なのだと、戦場の風景を思い出しては、掻き消す。
いくつかの単語で答えては、わかりやすい態度で興味を示したり、驚いたり。

睦まじい友情の写真を切り取ったものが、水に浸したように張り付いている気がする。
それを彼が望んでるのならばそれでもいい、

勝利は彼が話す事に夢中で持っていたものを忘れているんではと一瞬の気に触れて、
食べないのかと言う。
そしてすぐに食事と会話を同時に始める彼の声を聞いて、

努力はこいつを探しているのだろうかと、考えたりも、した。






やさしい体温を喰らえ



























(2009/0719)